Carl Zeiss Tessar の 50mm/F2.8 は西ドイツ製も含め幾つか所有していますが、これは Jena の中望遠レンズ Tessar 2,8/80(80mm/F2.8)です。
ebay やヤフオクなどで Jena の 50mm は多く出品されていますが、80mm はそれに比べるとかなり少ない感じです。たまたま安価なジャンク品が出品されているのを見つけて、つい購入してしまいました。
オールドレンズは基本的にジャンク品ばかり(安価で、修理も楽しいので)購入しているのですが、今回入手した 80mm の Tessar はこれまでになく状態が悪い感じです。
外装は傷だらけです。
また、ピントリングは非常に重く、絞りリングは固着して開放状態から動かせません。スライド式のプリセットリングにもグリスが塗られて固着しているような感触があります。
鏡胴も少し凹んでいますね。
そして肝心のレンズは・・・
見事に曇っています。この状態、なんだか嫌な予感がします。バルサム切れでなければ良いのですが・・・
撮影結果を正常なレンズと比較してみました。
左が今回入手した 80mm F2.8 の Tessar で、右が 50mm F2.8 の正常な Tessar です。大きさはトリミングして合わせてあります。
コントラストが低く、ちょっとでも逆光に近いと盛大にフレアーが出ます。
とりあえず分解してみます。
① 化粧リングはゴムのオープナーで回して外します。
② 一番外側のリングをカニメレンチで少しだけ緩めて爪楊枝などを使用して外します。
③ これで前玉群が外れます。
④ 曇りはこの中ですね。後玉は薄カビのみで結構綺麗なので、合わせレンズは問題なさそうです。(ひとまず安心)
① 一度裏返してこのビスを外します。写真では見えていませんが 2 個所あり、これが鏡胴の直進キーとなっているようです。
② フォーカスリングが回転しないように押さえながら絞りリングを反時計回りに回して鏡胴を分離します。
③ 外れた位置にマーキングしておきます。組み立ての際、同じ位置からねじ込まないと無限遠が出なくなります。
以前修理された方が付けたと思われる印があったので、そのまま利用させてもらいました。
④ 分離された鏡胴。
絞りリング側の鏡胴をさらに分解します。
① この押さえリングを外してヘリコイドを抜きます。これ、真っ直ぐなカニメレンチでは後玉が入っている鏡胴に干渉して外すことができません。先端が曲がったカニメレンチや、コンパス型の工具で外します。
② プリセットリングのストッパーになっているビスを外します。
③ 次にこの押さえリングを外します。
④ これでプリセットリングの固定枠が外れます。
内部がオイルでベトベトになっていて酷く臭いです。いったい何の匂いなのでしょうか?いままで何度か分解しましたが、こんなに臭いレンズは初めてです。
レンズが曇ったのもこの匂いが何か関係していそうな気もします。
更に続きです。
① このスペーサーは外しておきます。
② プリセットリングは上に引き抜けば簡単に外れます。4 本のバネも簡単に外れるので無くさないように注意します。
③ 絞り羽根を動かすためのビスを外して、絞りリングを半時計方向に回すと完全に外すことができます。
④ 絞りリングもヘリコイドになっているようです。グリスが固着していて、なかなか外すことができませんでした。
絞り羽根にアクセスする前に後玉を外しておきます。
① 一番外側の押さえリングを外します。
② 少し取れにくいですが、内側から押し出すとレンズが外せます。
③ 油で粘っていますが、絞り羽根が出てきました。それにしても凄い絞り羽根です。16 枚もあって、全域でほぼ円形絞りとなるようです。
絞り羽根を分解します。
本当ならあまりやりたくない作業です。5 ~ 6 枚羽根のレンズは分解したことがありますが、それでも組み立てるのは結構面倒くさいです。
現代の高級レンズでもせいぜい 11 枚程度なので、16 枚はちょっと凄すぎです。
① この C リングは、爪の先で摘まめば何とか外すことができます。
② 絞り羽根を開放状態にして、バラバラにならないよう位置決めリングをそっと抜き出します。
③ 絞り羽根が位置決めリングの方へくっつくよう、逆さまにして抜き出した方が良いかもしれません。
また、元通りに戻せるよう、絞り羽根の状態を良く見ておきます。
④ 完全に分解された状態。
① 油だらけの絞り羽根を綺麗に脱脂します。
② 鏡胴の奥で組み立てるのは大変なので、位置決めリングの裏側に絞り羽根の最初の 1 枚をセットします。
開始はどこからでも構いません。
③ 2 枚目以降は上に重ねていきます。
④ 11 枚目くらいからは、既にセットしている絞り羽根の下に潜り込ませるようにしてセットします。
① 絞り羽根を全てセットし終えたところ。結構大変な作業です。
② 鏡胴の奥にそっと入れます。このとき絞り開閉用のレバーを取り付けるネジ穴が写真の状態では左端で全閉、右端で開放になるように入れる必要があります。
この作業は、かなり苦労すると思います。
③ C リングで固定します。
④ 絞り羽根が軽くスムースに動くことを確認します。ここにグリスなどは使用しません。
後は、分解したのと逆の手順で絞りリング側の鏡胴を組み立てます。
グリスはヘリコイドの部分のみ薄く使用します。
脱脂する前は、鏡胴の中が明らかにグリスとは異なる液体状の油でベトベトになっていました。強烈な匂いは、たぶんスプレー油のようなものを中に吹きかけたのが原因だと思います。
油汚れなので、ひょっとしたら・・・と、分解した金属パーツを 5 分くらいお湯で煮てみると、匂いは見事に消えてなくなりました!
次に、フォーカスリング側の鏡胴を分解します。
① フォーカスリングのストッパーになっているビスを外します。
② フォーカスリングを反時計回りに回すと外れてきます。
③ 外れた位置を覚えておきます。組み立ての際、同じ位置からねじ込まないと無限遠が出なくなります。
組み立てる時は、この位置から一旦最後までねじ込んで 2 回転と 1/4 ほど戻してからストッパーネジを締めます。
フォーカスリングを完全にねじ込んだ位置で固定してしまうと、ピント調整できなくなってしまいます。
④ 完全に分解された状態。
分解したら古いグリスをアルコールなどで綺麗に取り除き、新しいヘリコイドグリスを薄く塗って、忘れないうちに分解したのと逆の手順で組み立てておきます。
因みに強烈なオイル臭は、お湯で 5 分くらい煮込むと、ほぼ消えてくれます。
問題の前玉群を分解してみます。
① 後ろ側の押さえリングを手で回して外し、光学系第 2 レンズを取り出します。水性塗料のようなものが緩み止めとして塗られているのでアルコールなどを染み込ませて溶かしておく必要があります。
② 前側は押さえリングをカニメレンチで緩めて外します。これで前玉群はバラバラになります。
③ 問題の曇りは、一番前の光学系第 1 レンズの裏側でした。
④ 試しに中性洗剤で洗ってみると綺麗になりました。何かが付着していたようです。
① 綺麗に掃除して、前玉群を組み立てます。
② かなり綺麗になったと思います。レンズに気泡が入っていますが、この当時のレンズはこれが当たり前だったようです。
① 後玉も綺麗に掃除します。
② 鏡胴にセットして、押さえリングで固定します。
① ヘリコイドグリスを薄く塗って、開始位置に注意しながら絞りリング側とフォーカスリング側の鏡胴をねじ込み、直進キーとなっているネジで固定します。
② 前玉群を鏡胴にセットします。この状態で無限遠が出ていることを確認します。もしも無限遠が正常に出ない場合、鏡胴のねじ込み開始位置が正しくないので、何度かリトライして調整します。
③ 化粧リングをゴムのオープナーで固定したら、
④ 全ての作業が完了です。鏡胴の傷も磨いて少しだけ目立たなくしています。深い傷や凹みはどうしようもありませんが、少しはましになったと思います。
ちょっと試写してみます。
逆光気味でもコントラストがとれるようになりました。
しかしながら Zeiss の Tessar というモデルから想像するようなシャープで高コントラストなイメージとはちょっと違う感じです。
所有しているゼブラや黒鏡胴の 50mm Tessar に比べるとずいぶん柔らかい印象です。
黒鏡胴の Tessar よりも 20 年位古いレンズなので、技術の進歩や設計思想の違いなどはあるのかもしれません。
α7IV A Mode 1/200 F2.8 +1.7EV ISO=200 Cleative Look=ST WB=Auto
F5.6 くらいまで絞ると隅まで円形に近いボケになります。全域で円形絞りなので多角形にはなりません。
α7IV A Mode 1/160 F5.6 ISO=3200 Cleative Look=ST WB=Custom
ピント面からのボケの感じも良いですね。
α7IV A Mode 1/100 F2.8 -0.5EV ISO=3200 Cleative Look=ST WB=Custom
若干コントラストが低いこのレンズは、白黒写真で生きる感じです。
白飛びや黒潰れしにくく、フィルム写真の雰囲気が良く出ていると思います。
1950 年代の初頭といえば白黒フィルムが全盛期の時代なので、それに合わせて設計されているのかもしれません。
α7IV A Mode 1/800 F4 -0.5EV ISO=200 Cleative Look=BW WB=Auto
α7IV A Mode 1/4000 F2.8 -0.2EV ISO=200 Cleative Look=SE WB=Auto